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 実生新花と花の謎 その3 桜重ね

 相模原市  清水 弘


 昨年、ご覧の新花ができた。八重咲き、牡丹咲き、あるいは獅子咲きとも呼べるもので、六英咲きの花の雄しべが花弁状に変化し‘多弁花’となったものである。今回は花菖蒲の多弁花について解説しよう。
花菖蒲の基本花形(図 1.)
A 三弁花
 原種のノハナショウブを同じで外側の三枚の大きな花弁に対して、内側により小さな三枚の花弁を持つ。一般には外側の花弁を外弁、内側の花弁を内弁と云いこの型を三英咲きと呼ぶ。植物学をかじった人は外花被片、内花被片といったり、ジャーマンアイリスを知っている人はフォールとスタンダードと云ったりして、呼び名が混乱している。  また、花菖蒲に関心がある人の中で、江戸系好みの人は内弁を特に‘鉾 と呼んだり、熊本系にこだわりのある人は一般化している英(エイ)の発音を‘ヨウ’と呼んだりすることもある。
B 中間型1
 上記の内弁がもう少し発達してやや大きくなった花形で、伊勢系の多くの品種がこれに当たる。
C 中間型2
 内弁が更に発達して、内弁基部に黄目(シグナル)が時折出現するもの。花菖蒲の育種においては、このタイプの花は完全に淘汰されているが、ルイジアナアイリスや設楽系アヤメではこの型を時折見かける。このタイプの中に内外異なる花色の2色花が出ないものかと思っている。
D 六弁花
 内弁が外弁とほぼ同大になり黄目も完全に出現しているもの。先年、信州のとある高原で野生のアヤメの花でこのタイプのものを見かけたので、野生状態でもこの遺伝子をヘテロに持っている個体があることが容易に想像される。
E 八重咲き
 六弁花の上に小さな花弁が複数発生したもの。増加した花弁が優雅に垂れていれば牡丹咲きというし、勢いよく立っていれば獅子咲きという。
八重咲きの発達(図−2.)
 多弁花にはいくつかのタイプがあるが、今回は雄しべが弁化(ペタロイド)する場合を紹介しよう。
a ・まず、雄しべの先端が変形し弁化を開始する。
b・更に弁化が進行し完全に花弁化するが、雄しべ基部に花粉が多少形成されることが多い。 c・花弁化した弁の中に副弁の形成が認められる。花粉の形成もされている。
d・副弁が更に発達し、花粉は殆ど形成されない。
e・副弁が元の弁から完全に独立し、1本の雄しべから2枚の花弁が形成される。
 以上を「ペタロイド」と呼ぶ。このタイプは弁数が最大12枚となるが、雌しべの変形が伴わないので交配には母本として使用できる。今回紹介した「桜重ね」は、図−2のeのタイプに入ると思うが、この親はaタイプで、自家受精してみた結果得られた花が、桜重ねである。
 八重咲きの花が欲しかったら、皆さんも六英花の中から、こうしたものを選び出して自家交配するよい。きっと、その実生の中からこうした八重咲きを見つけることができるでしょう。