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 花菖蒲の新たな病害リゾクトニア性立ち枯れ病

  加茂花菖蒲園 永田 敏弘


病株 株全体が枯れず,篠が1本づつ枯れる
病株を引き抜いてみたところ
同じく,褐色の部分からいやなにおいがする

 当園にて一昨年、このように名前を付けた新しい病害が大発生し、全園の六割以上が早春から開花期にかけて枯れるという大被害を受けました。出荷用の鉢物を、急きょ補植することにより、最悪の事態はまぬがれましたが、発生当初どのような病害菌による被害かがわかりませんでした。
 症状としては、春先の芽出しから開花最盛期にかけて、最初は丁度メイ虫の害のように篠の中心の葉が黄変し、それを引き抜いてみますと、基部の生長点の部分だけ褐色になって枯れており、次いで次第に篠全体に元気がなくなり、葉先から黄色く枯れ、数日のうちにその篠は枯れてしまうといったようなものです。株全体が枯れて来るのではなく、篠が一本づつ枯れてゆきます。暖冬の年は冬場から腐敗し、発芽してきません。地下部に害は無いようですが、生長点が枯れるため、再生せず、ひどい場合は株全体が枯死します。腐敗した部分を鼻に近づけると悪臭があります。元気の良い緑の葉が次々に黄変しますので、園の景観上もたいへん見苦しくなります。
 品種によりこの病害菌に対する抵抗力の強弱にかなりの差があり、ある品種が全株枯死するほどの被害を受けても、その品種のすぐ隣に植えてある別の品種では、被害が全く見られないこともあります。キショウブとの交配種は全く無害ですが、およそ七割以上の品種が程度の差こそあれ発病し、抵抗力の非常に弱い品種のなかには、すでに絶種したものもあります。
 また、気温が二十七度を越す高温が続くようになる六月下旬頃になると発病は止まり、夏場は全く発生しません。そして、中秋頃から初冬にかけ、また発生しますが、この時期は春ほど発生がひどくはないようです。
 被害株から病害菌を鑑定してもらったところ、リゾクトニアという病害菌によることがわかりました。これはイネの苗立ち枯れ病などを引き起こす病害菌で、病害菌としてはごくありふれたもので、この病害菌専用の薬剤も数種類市販されています。当園では「リゾレックス」、または「リンバー」という薬剤を発病期に規定量、定期的に散布しましたが、顕著と言えるほどの効果は認められませんでした。
 また一昨年よりは昨年、この病害の発生が減少してきましたので、年を追うごとに鎮静化の方向に向かうものではないかとも考えていましたが、完全になくなるものではなさそうです。
 そして、この病害の対処法として一番効果的なのは、先に述べたようにこの病害に対する抵抗力の強弱が品種により異ることを利用し、この病害に弱い品種は植栽しないことであると、今は考えています。また、品種を育種する際も、この病害に対する抵抗力を考慮します。
 各地の花菖蒲園からも一昨年くらいより、同じような被害を耳にするようになりましたので、今後は注意すべき病害の一つになることが予想されます。
 また、当園でこの病害が大発生した原因として、大発生する前年の夏、地植え圃場に土壌改良の目的でEM菌を大量に使用したことがあげられます。その根拠としては、鉢物圃場にはこのEM菌は使用しなかったのですが、ごく一部の区画、試験的にEM菌を使用した鉢にのみ、地植え圃場と同じ病害が集中的に現れ、発病がひどく絶滅した品種も見られるからです。
 また、他の園でも隣接する芍薬園にEM菌を撒いたところ、その近くの花菖蒲が枯れたという話も聞きました。
 しかし、先に述べたようにリゾクトニア菌はごくありふれた土壌病害菌なので、 この病害の発生がEM菌によるものと断定することはできません。